数覚を養う ー 定積分の感覚

問: 次の定積分を求めよ.
\int_0^{\pi}\sin x dx
はい, 不定積分-\cos xだから... って考えた人, 負けです. あなたの負け. こんなものは, \sin xのグラフが頭に入っていれば, 一瞬で2だと分かるのです.

sin xの感覚

y=\sin xのグラフを見てください.

赤く塗りつぶしたところが積分したいところです. おなじみの, ふにゃふにゃなグラフです.


\sin xは, マクローリン展開(x=0周りのテイラー展開)を行うと,
\sin x \sim x - \frac{x^3}{6} + \frac{x^5}{120} -\cdots
となりますが, これって原点周りでだいたい
\sin x \sim x
ってことです. これをグラフで見ると, このようになります.

x=0周りでy=\sin xy=xは綺麗に接しています. ついでに, y = \tan xも接していることが分かります. 一次近似でxとできるというのは, 物理で頻繁に出てくるので, グラフを持ってイメージできるようにしておきましょう.

sin xの定積分

さて, 問題は
\int_0^{\pi}\sin x dx
でした. これは, 次のイメージで考えます.

0 \le x \le \pi, 0 \le y \le 1の長方形を考えます. これはy=\sin xをすっぽり包みます. この長方形の面積は\piです. 問題のy=\sin x積分値は, この長方形の2/\pi倍です. 外側が\pi, 求めたいのが2です. 面積比は
2\;:\;\pi
なんです. いいですか?「にーたいぱい」ですよ!!! 当たり前ですが, 1\;:\;2よりはでかいんです.


もう一回, 問題の式を見てみます. 私の思考ルートを一緒にたどりましょう.

\int_0^{\pi}\sin x dx
頭の中で, y=\sin xを思い浮かべます. 今は上のグラフを見てください. それを囲む長方形を考えます. 縦が1, 横が\piで, 面積が\piです. はい, 求めたい積分値は2です.
ある意味では, 「覚えている」っていう状態なんですが, グラフのイメージがあれば, これが1になったりしないのは分かると思います. だって, 面積を考えると\piの半分よりは絶対に大きいですから. あと, 実際に[-\cos x]_0^{\pi}を云々かんぬんした経験があれば, どうせ整数だって分かりますし.
もはや, \sin x0から\piまで積分したい時に, 不定積分-\cos xだから何某から何某を引いて... みたいな周りくどいことをしなくていいのです. これだけでも心が楽になれます.



半分の面積を考えます.
\int_0^{\pi/2}\sin x dx = 1
グラフにすると, 次の赤いところと青いところが同じということです.

あるいは, こうでもいいですよ.

こんなのでも!!!

もうどう考えても1ですね.



更に半分の面積を考えましょう.
\int_0^{\pi/3}\sin x dx = \frac 1 2
グラフにすると, このようになります. グラフを描いてみると, あぁ, 直角二等辺三角形とほとんど一致するなぁって分かりますね.

そもそも, \pi/3というのが, 1とちょっとっていうのが大事です. えっ, 3.143で割るから当たり前だって?こういうことですよ.

ほら, \theta=1\theta=\pi/3はもう, ほとんど同じです. ええ, 3.14/3がだいたい1とちょっとだけ大きいくらいですからね. 逆に言うと, 1ラジアンというのは60度よりちょっと小さい位なのです.
正弦波の方の積分範囲は[0, \pi/3], すなわち60度まで, ラジアンで話すと1ちょっと過ぎまでです. だから, さっきのグラフみたいに赤が右にちょこっとはみ出てるんですね.


これまでの結果を並べてみましょう.
\int_0^{\pi}\sin x dx = 2
\int_0^{\pi/2}\sin x dx = 1
\int_0^{\pi/3}\sin x dx = \frac 1 2
ほら, 綺麗でしょ?積分範囲が半分, 1/3倍になると, 面積が半分, 1/4倍となってます. え?しょうもないって? そんな事言わないでよ〜ヾ(。>﹏<。)ノ゙


もうここまで来ると, 次の関係に気が付きます.
\int_0^{\pi/3} \sin x dx =\int_{\pi/3}^{\pi/2} \sin x dx =\int_{\pi/2}^{2\pi/3} \sin x dx =\int_{2\pi/3}^{\pi} \sin x dx = \frac 1 2
グラフにすると, こんな感じです.


下の積分範囲と上のグラフで, 色を対応させてみました. ふわぁ, これで積分結果が同じなんだなぁ. 積分範囲の大きさが2:1:1:2になってて綺麗です. イメージが大事です. イメージが.

同じ面積を持つ放物線

さて, 次の関数を考えましょう.
y=\frac{x(3-x)}{1.5^2}
これは, 二次関数です. x=0, x=3x軸と交わり, 高さが1となるよう正規化したものです. この関数を, 先ほどのグラフに重ねます. 緑の線です.

拡大します.

緑の線は放物線, 赤い線は正弦波なんですが, もう区別がつかないほどかなり近寄っています. しかもなんと, 面積が同じなのです.
\int_0^{\pi}\sin xdx = \int_0^3 \frac{x(3-x)}{1.5^2} dx = 2
放物線の積分は, 有名なあの公式を使って計算します.
\int_0^3 \frac{x(3-x)}{1.5^2} dx  = \frac 1 6 \frac{3^3}{1.5^2} = 2
この放物線についてはあまり言えることがありませんが, ぴったり同じ面積を持つということで覚えておくといいかもしれません.



突然ですが, 問題.
問: この放物線と正弦波の交点の概算値は?

パッと答えを用意できましたか? 明らかにx=0で交差しますが, これはおいておいて, もう一つの交点を考えます. 最初の印象は, 1.5\pi/2 \sim 1.57の間ということです. かなり良い感じに交差するので, だいたい間を取って, 1.535と目星をつけましょう. 実際の根は1.53644ですので, そう悪くは無い近似です. と言うより, 良すぎます. なんと0.1%の誤差しかありません!!!

こういう風に, 根がだいたい幾らかイメージできるのも数覚かもしれませんね. ここでの答えは, WolframAlphaに投げて確認してみてください(x*(3-x)/1.5^2-sin(x) - Wolfram|Alpha).


正弦波の積分はこれくらいにして, もうちょっと他の定積分を見てみましょう.

円の面積

\int_0^1\sqrt{1-x^2} dx = \frac \pi 4
はい, 真面目に積分しようとした人, アウトですよ. 変数変換しようとした人は, 頭が固いにも程があります. こんなのはこうです.

はい, \pi/4ですね. 半径1の四分円なので面積\pi/4です. 式を見てぱっと円がイメージできたら, 積分はもう終了します. お前はもう死んでいるってやつです.


円周率を4で割ると,
\frac{\pi}{4} = 0.78539\cdots
なので, 1弱ですね.

四倍すると, こんな感じです.

円の面積が大体3.14, それを囲む正方形の面積が4です. ついでに言っておくと, 円周の長さは2\pi \sim 6.28で, 円を囲む正方形の周囲の長さは8です.


半円っぽい曲線なんて色々あるもんで, 4つぐらい並べてみると次のようになります.

上から, 長方形, 半円y=\sqrt{1-x^2}, 放物線y=(1-x)(1+x), そして三角形y=1-|x|です. 特に, 放物線の面積はそれを囲む四角形の面積の2/3倍であるということは重要な事実です.


放物線と円を次のように接しさせてみます.

放物線はy=(1-x)(1+x), 円はx^2+(y-1/2)^2=1/4です. 放物線の方の面積は
\int_{-1}^1 (1-x)(1+x) = \frac{2^3}{6} = \frac 4 3
で, 円の方の面積は
\pi (1/2)^2 = \frac \pi 4
です. 面積の比は
\frac\pi 4 \;:\; \frac 4 3
ということです. なんか逆数っぽいですね.

この円は, 放物線に「ぴったりハマって」います. もう少し正確に言うと, 放物線の(0,1)における曲率と一致するような円です. なぜなら, y=(1-x)(1+x)の二階微分y''=-2, つまりx=0での曲率半径は1/2, これはさっきの円の半径と同じということです. これより大きいとつっかえますし, 小さいところころころがって不安定です.

ウォリスの公式

問: 次の定積分を求めよ.
\int_0^{\pi/2}\sin^n x dx
この積分は大学受験で有名なものですね. 部分積分で漸化式を作る感じのやつです. まず, nが奇数の方から見て行きましょう.
\int_0^{\pi/2}\sin^{2n+1} x dx = \frac{(2n)!!}{(2n+1)!!}
つまり, 小さい方から
1
\frac 2 3
\frac 2 3 \times \frac 4 5
\frac 2 3 \times \frac 4 5 \times \frac 6 7
となっています. どんどん小さくなるのが分かりますね. 図に描くと次のようになります.

\sin x積分1となるのはもうやりました. 3乗すると, \sin x01の間ですから, 必ず小さくなります. 更に, 0の周りではだいたいx^3となるので, 原点にはx軸と接する形となります. 2/3倍になるのは... うん, なかなか感覚的には分かりませんが, 次が4/5倍, その次が6/7倍と, その減少割合がだんだん小さくなっていくのは感覚的に理解できるでしょう.


偶数の方は,
\int_0^{\pi/2}\sin^{2n} x dx = \frac{\pi}{2}\frac{(2n-1)!!}{(2n)!!}
です. つまり,
\frac\pi 2
\frac \pi 2 \times \frac 1 2
\frac \pi 2 \times \frac 1 2 \times \frac 3 4
 \frac \pi 2 \times \frac 1 2 \times \frac 3 4 \times \frac 5 6
となります.

まず, \sin^2 xというのは, 平均して1/2なので, 積分値は半分なのです. これは信号の分野でよく出てきますね.

広義積分

\int_0^{\infty}e^{-x} dx = 1
これは簡単で, 真面目に不定積分をやってもテスト時間は大丈夫でしょう.

赤いところは広義積分で, ∞まで行くんですが, これが青い三角の面積と同じなのです お互いにはみ出てる部分の面積が同じということですね.



\int_0^{\infty}\frac{\sin x}{x} dx = \frac \pi 2
うむむ, なかなか難しくなって来ました. 複素関数を習うと出てくるやつですね. やはり信号の分野で頻繁にでてくるんですが, 幾らだったか, いつも忘れてしまうんです. 何とかして思い出す方法が欲しいんです. では, どうイメージしたらいいんでしょうか.

赤いところを求めたいんですね. ちょっとだけ拡大してみますと...

そうです, この求めたい赤いところは, 青い直角三角形と同じ面積なのです!!!

0から\piの範囲では, 赤いほうが青よりも大きいです. では, \pi以降の積分値は負のはずです. 実際,
\int_\pi^{\infty}\frac{\sin x}{x} dx \sim -0.281141
と, 負の値を取ります. つまり, 赤いのが青いのから[0,\pi]で上にはみ出た部分が次のようになるということです.
\int_0^\pi\frac{\sin x}{x} dx - \frac \pi 2 \sim 0.281141


こんな風に, 忘れやすいし, かつパパっと計算しにくい広義積分も, 三角形近似することで大体の面積がわかります. イメージ持っていただけましたか?

おわりに

積分は, 高校数学の一つの難所です. ドリルばかりやらされて, 式の扱いには長けている人も多いことでしょう. しかし, 私はとても苦手でした. 出来るだけ逃げよう逃げようとしたんですね. ほら, 積分ってまず不定積分で間違えて, 代入するところで間違えて, 符号を間違えて, 分数の足し引きで間違えて... っていっぱい間違える所あるじゃないですか. そんな中で, 関数のグラフをイメージする癖ができたんですね. グラフのイメージに支えられた計算は, かなり強力です. 「これの半分だったような... あれ, 積分区間って[0,\pi]だったかな, [0,\pi/2]だったかな」とか, そういうことが無くなります. 積分に自信がなくてもイメージがあれば自信を持つことができます. 正弦波と同じ面積を持つ放物線というのは, この記事を書いてる時に見つけたんですが, やはりこうやって考えなおすと新しい発見があって楽しいものです. そういうひらめきが積み重なって, 数覚が鍛えられていくのだと思います*1.



この記事のグラフはGrapherを用いて描きました. 素晴らしいソフトウェアに感謝します. 読者にはこのGrapher, あるいはGRAPESというソフトでグラフを描画することをお勧めします. 両者ともに定積分を計算する機能を持ちます. また, WolframAlphaには日頃からの感謝の意をここに表したいと思います.

*1:オカルトっぽいなと思ってこの記事を読むと, 本当にそうなってしまうので, 数覚とオカルトは紙一重なのかもしれません.