美しき行列式たち, 第六回です. 連載にはタグ『行列式』をつけています. 今回は, Cauchy, Hilbertという有名な数学者の名前の付いた行列の行列式を紹介します. 彼らは何を思い, この行列式を考えたのでしょうか.
16. Cauchy determinants
かのCauchyの名を冠した行列の行列式. その分母は二重の差積(2つの数列が絡みあってる), 分子は各数列の差積の積になっています. 差積と言えば第一回のVandermonde determinantsですが, Cauchy determinantsも中々美しいと思いませんか?
(証明) 行列とする. これに二重の差積を掛けて
の行列式を考える. 各要素はに関して次式(分母がない)なので, 行列式は次式である. 更に, 任意のについて, ならば行列式はであるため, 差積 で割り切れる. 同じことがに関しても言える. これらの差積は各々次式であるため,
とするとは数字である.
さて, この数字を決定する. 大きな数字を取り,
とする. 容易に
となることが分かる. さて,
であるため,
となる. よっての方の差積の各項の符号を反転させれば良い.
(証明終)
この係数決定, かなり時間かかりました. 極限使わずにはうまく証明できないのかなあ... というか, 極限使ってたらあんま証明になってない... もっときちんとした証明ないかな... と考えてたところ, Proof Wikiで見つけてしまいました.
(証明)
(証明終)
何やってるか分かりますか? なんでもなく, まず一列目を他の列から引きます. すると2つの積和が外に出せます. 次に一行目を他の行から引きますと, 更に2つの積和が出てきます. それを繰り返していくと, 4つの二重積和になり, 積和を取るの範囲をものすごーーく慎重に確かめると, 綺麗にまとめられるんですね. こういうやつ, 横軸に, 縦軸にを取り, その積和が何処を表すかを確かめながらやると間違いが減ります. それにしてもまあ, なんとうまくできてるんでしょう!!! 巧妙ですね.
17. Hilbert matrix
Cauchy determinantsの特殊なものです. , とすることで得ることが出来ます.
(証明)
(証明終)
Hilbert matrixは実は逆行列が閉じた形で二項係数を用いて美しく書けるのですが, 今は行列式にのみ興味があるので省略します. 気になる方はHilbert matrix - Wikipediaをどうぞ. 次回はいよいよ最終回. 美しく且つ刃のある問題に挑みます. お楽しみに〜♪